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札幌地方裁判所 昭和45年(ワ)928号 判決

原告

小原清子

右訴訟代理人

下坂浩介

外一名

被告

北海道

右訴訟代理人

山根喬

右指定代理人

成田泰一

外五名

主文

一  被告は原告に対し、金三二二二万〇九九二円および内金二九二二万〇九九二円に対する昭和四二年二月二六日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(原告)

一、被告は原告に対し、金八九五二万三九六九円および内金七七八四万六九三〇円に対する昭和四二年二月二六日から右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、仮執行宣言。

(被告)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(請求原因)

一(事故の発生)

原告は昭和四二年二月二六日午前一〇時ころ、北海道雨竜郡沼田町立浅野小学校生徒の父兄とともに同小学校体育館軒下において除雪作業に従事していたところ、同体育館の屋根上から落下した氷雪を身体に受け(以下本件事故という)、よつて第一二胸椎脱臼骨折兼脊髄損傷の重傷を負い、両下肢知覚運動完全麻痺となつて回復の見込みは殆どなく一生治らない不具の身体となつた。

二(被告の責任)

(一)  浅野小学校所在地である前記沼田町は豪雪地帯であり、同校設置者である沼田町は同校校舎周辺の除雪について毎年予算を計上して除雪を行なつていた。しかし、右予算のみに頼つていたのでは十分な除雪が期待できないこともあり、同校校長は校舎管理の一環として同校PTAに対し父兄による除雪を要望し、PTAも本件事故の数年前から、環境整備計画の一として父兄による一冬一ないし二回の除雪作業を行なう旨総会決議をもつて計画し、校長とPTA会長連名の書面による要請があるとこれに応じて父兄が校舎周辺の除雪作業を行なつていた。

(二)  しかして、昭和四二年二月二一日ころ、同校校舎周辺は軒先近くまで積雪し、校舎内に陽光が入らない状態にあつた。そこで、同校校長松本勤、同校教頭北向清の両名は同日ころ、PTA会長滝川政良にはかり、毎年の例にならい、同月二三日および二六日の両日、午前九時から正午まで原告ら父兄に対して除雪作業を要請することに決め、父兄のいる全家庭(約四〇〇戸)に対し、校長およびPTA会長連名の同月二一日付書面をもつて、右作業への参加を要請した。

(三)  同月二六日には予定どおり除雪作業が行なわれることになつたが(尚、同月二三日に予定されていた除雪作業は降雨のため中止された。)、当日は教頭北向清が都合により右作業に参加することができないので、校長松本勤は同校教諭大山政雄に対し、右当日の作業計画の立案と作業現場での指揮を命じ、あわせて同人と除雪箇所を検討した。

(四)  当日、右松本は午前八時三〇分ころ登校し、やや遅れて参集した前記滝川政良ら数名の父兄を促して同校放送室前や旧校舎(一階建)屋根上の除雪は開始した。他方、松本から当日の作業に関する指揮を命ぜられていた右大山は午前九時ころ登校し、同校公務補小林浪男と共に、参集してくる父兄(午前一〇時ころまでに約八〇名が参集した。)に対して適宜作業場所を指示しながら、自らも参集者らに混つて同校理科室前の除雪作業を行なつた。

(五)  一方原告は前記要請に応じて同日午前九時すぎころ登校し、先ず同校職員室裏側の窓付近の除雪を行ない、その後約八名の父兄とともに本件事故現場である体育館北西側屋根下の除雪を開始した。ところで、右体育館は棟上げ高約一二メートル、総面積六八九平方メートル、屋根の勾配約三〇度のものであつて、屋根には「雪止め」「氷止め」等の設備がなされてないうえに、北端近くの屋根の雪は三日前の霙(みぞれ)とそれに続く暖気のため、融解して滑降し、軒先近くで厚さ約一〇ないし一五センチメートルの氷状と化し、屋根から押し出されるように垂れ下がつて、約五〇センチメートル下の積雪と連結し、その部分の窓は外部から完全に遮蔽された状態になつていた。従つて、その軒下近くで除雪作業をしたり、また積雪に連結した氷雪を切断する場合には、作業の振動や支えが失くなることにより屋根上の氷雪が落下し、事故が生ずる危険が多分に存したが、原告らは右の連結した根元近くを除雪しつつ連結した氷雪の中間部分を切断して窓からの採光を良くする作業を進めていたところ、突然屋根上の氷雪が長さ約11.8メートル、幅約三メートルにわたつて落下し、原告ら四名の父兄がその下敷となつた。

(六)  以上のように、前記除雪作業は同校PTA環境整備計画実施の名の下で、同校校長松本勤の公権力行使たる校舎管理業務執行の一環として、その指揮の下に行なわれたものである。そして、本件事故現場は、屋根上の氷雪の落下する危険があり、しかも当日は多数の者が一時に作業をしていた関係上、お互いの連絡不十分による事故発生の危険も考えられるのであるから、右松本校長および同校長から作業指揮を命ぜられた前記大山政雄の両名は、要請に応じ除雪作業に従事する父兄に対し、落雪の危険について警告し、かつ右危険の存する場所で作業しないように指示するかあるいは落雪の危険を作業者に通報する監視員を適宜配置するなどして、原告ら父兄を落雪による危険から護るべき義務があるに拘らず、同校長らは原告ら父兄に対して除雪作業を要請した前記書面中に、児童に除雪作業を行なわせて事故を起こした例もある旨を記載したので、右記の如き事故発生を防止すべき注意義務を怠つた。

(七)  被告は、その執行機関である北海道教育委員会をとおして、沼田町立浅野小学校の校長および教職員についての任命権を有し、かつ、同校長および大山教諭に対する俸給(給与)の支払者である〈中略〉。

(抗弁)

一(消滅時効)

(一)  本件事故は昭和四二年二月二六日に発生したものであるが、本訴は本件事故発生の日から三年以上を経過した同四五年六月二五日に提起された。

(二)  従つて、原告の被告に対する請求権のうち、同四二年六月二四日までに生じた分はすべて時効により消滅した。

二(過失相殺)

(一)  建物の屋根の下の部分の除雪をする場合には、常に落雪の危険を伴なう。特に、本件のように屋根上の氷雪が地面まで続いているような場合には、その除雪には落雪の危険を伴なうことが何人にも予見しうるものである。しかも、本件事故発生当時はその数日前からの暖気と降雨のため、屋根の雪が自然落下し易い状況にあつたのである。

(二)  〈省略〉

三(弁済)

(一)  原告は、訴外浅野小学校PTAより、本件事故の見舞金として金五〇万九二〇〇円を受取つた。

(二)  原告は沼田町より、賠償金として金四三四万四五一四円を受取つた。

(三)  原告は治療費につき、被告より生活保護法による扶助を受けており、治療費は過去将来とも被告において支給することが明らかである〈以下省略〉。

理由

一請求原因第一項の事実は、原告の受傷の程度を除き当事者間に争いがなく、右受傷の程度は、〈証拠〉を総合すれば、脊髄完全損傷のため両下肢の知覚、運動が完全に麻痺し、現代の医学水準をもつてしてもその回復は不可能であり、今後日常生活を営むうえに生涯介護を要すると認められる。〈証拠判断略〉

二右本件事故がおきるまでの経緯の概略は請求原因第二項(一)ないし(五)のとおりであつて、これらの事実は当事者間に争いがない。そして、〈証拠〉を総合すると、当日浅野小学校では学校長松本勤の許可を得て、除雪する父兄らの休憩室用に教室が用意されて暖房され、また沼田町の費用で除雪する父兄らに対し昼食が提供されることとなつていた、との事実も認められる〈証拠判断略〉。

さすれば、右争いのない事実に右認定した事実をも総合して判断すれば、前記除雪作業は学校とPTAの共同企画事業とも目すべきものであつて、しかも当日の作業の計画立案と現場での指揮は、校長松本勤が同校教諭大山政雄に担当を命じていることからして、校長松本勤の公権力行使たる校舎管理業務執行の一環としてその指揮下に行なわれたと認めるのが相当である。従つて、本件除雪事務は専らPTAがなしたもので、学校は関与してないとする被告の主張は採用できない。

三次に、右校長松本勤、同校教諭大山政雄の両名につき、本件事故発生に関する過失の有無について判断する。

(一)  本件事故現場の事故当日の状態は請求原因第二項(五)に記載のとおりであつて、体育館屋根上の氷雪が落下し、事故が発生する危険が多分に存したことは当事者間に争いのないところである。さすれば、校舎管理業務の執行責任者たる校長松本勤および同人の指示のもと当日の除雪作業責任者たる校長松本勤および同人の指示のもと当日の除雪作業の計画立案ならびに現場作業の指揮を為す立場にあつた同校教諭大山政雄の両名は、要請に応じた父兄らが右体育館屋根下の除雪作業に着手する以前に自らもしくは第三者を通じて同屋根上の落下する危険のある氷雪を取除き、あるいは右父兄らに対し、作業手順として先ず落下する危険のある氷雪を取除くべき旨を指示し、あわせて、かかる指示が守られるよう監視するなどして、原告ら父兄を落石(ママ)による危険から護るべき注意義務があるといわなければならない。

(二)  しかるに、〈証拠〉を総合すれば、同校校長松本勤、同教諭大山政雄の両名は体育館窓付近の除雪作業を指示するに際し、同体育館屋根上の氷雪の状態を認識し、あるいは認識しないままに、原告ら父兄に対して漫然と作業箇所を指示するのみで、同所氷雪の落下する危険に思い至らず、前記の注意義務を怠たり、本件事故を惹起させたことが認められる(除雪作業を要請した書面中、児童に除雪させて事故を起した例もある旨記載があること(この事実は当事者間に争いがない)は、右判断を左右するものではない。)。尚、本件事故当日、右大山を補佐していた同校公務補小林浪男が同所氷雪の落下の危険に気付き自らの判断で同所の除雪作業に赴く父兄ら(その氏名は明らかでない)に対し同所が危険である旨指摘したことが窺えるけれども、前顕各証拠によれば、本件事故に遭遇した原告を含む四名のうち少なくとも二名は右趣旨の指摘を受けていないこと、また右小林は右指摘をしたのみで、それ以上に事故防止のための措置を採らなかつたことが認められ、〈証拠判断略〉右指摘はその撤底(ママ)に欠けるところがあり、これをもつては到底前記注意義務を尽くしたと認めることはできないと解するのが相当である。

四そして、請求原因第二項(七)記載の事実は当事者間に争いがないから、国家賠償法第一条第一項、第三条に基づき、被告は本件事故により被つた原告の後記損害を賠償すべき義務がある。

五損害

(一)  入院治療費、入院雑費、付添費等 金二四二七万三七八二円

原告の受傷の程度は前記のとおりであつて、〈証拠〉を総合すると、原告は本件事故当日の昭和四二年二月二六日深川市立病院に入院したのち同年八月一日には国立登別疾院に転医して、現在なお同病院で入院治療中であり、退院時期についての見込みもたたない状況にあること、右入院期間のうち同年八月一日から同五一年五月三一日までの間に入院治療費として合計金一一二八万〇五七〇円(月額平均約金一〇万四五〇〇円、尚最近時である同五〇年六月から同五一年五月までの一年間の月額平均は約一七万七六二〇円である。)を要したことが認められ、〈証拠判断略〉。尚原告は、入院治療が続くかぎりその費用と入院に要する諸雑費等の支出を要し、退院後においては生涯介護のための付添費と症状によつては治療費等の支出を必要とするわけであるが、前者であれば右認定した過去の入院治療費からみてその入院治療費は少なくとも月額金一七万円を下らないと認めるのが相当であり、後者であれば〈証拠〉の労働省作成の統計表による女子平均給与額等を参考にして少なくとも月額金一〇万円を下らない支出を必要とすると認めるのが相当である。とすれば、その損失算定の数値に相違がある以上、退院時期如何が算出される損害額に影響せざるを得ないが、前記のごとく退院時期不明である本件においては内輪に見積つて算定するほかはないから、入院中であることが明らかに推認できる本件口頭弁論期日終結の日の翌日(同五一年七月九日)に退院したと仮定して右損失を推認するのが相当である。もつとも前認定の原告の症状からは原告は今後も尚入院を継続する可能性があるものと推認されるが、この点は慰藉料の算定において斟酌するものとする。

前顕証拠によると、当時原告の夫であつた訴外高橋源之丞は同四二年二月二六日から同年八月三一日までの六ケ月間仕事を休んでほとんど付添つたこと、右期間中原告には近親者の付添看護を受けるのが相当な病状であつたことが認められ、右事実によると、原告主張の一日一〇〇〇円程度計一八万円の付添費は本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

また本件口頭弁論終結当時の原告の年令は五〇才であり、女子の平均余命に照らすと、原告主張のとおり二六年の平均余命があり、その間前認定のとおり、付添看護を要するものと認められる。

次に原告は入院中一日三〇〇円(本件事故当時に換算)程度の入院雑費の支出を要したものと推定され、右損害も本件事故と相当因果関係あるものと認められる。

以上によれば右損害額は左のとおりである。

1  入院治療費(昭和四四年二月二六日~同五一年七月八日)

金一一七四万九二八三円

〈計算式省略〉

2  入院雑費(期間右に同じ)

金一一〇万一八九九円

〈計算式省略〉

3  付添費

(一)  過去の分(昭和四二年二月二六日~同年八月三一日) 金一八万円

(二)  将来の分(昭和五一年七月九日から二六年間)

金一一二四万二六〇〇円

〈計算式省略〉

(年五分の割合による中間利息の控除は長期にわたるため修正ライプニツツ方式により、事故発生時の現価を算出)尚中間利息控除分とインフレーシヨン等による貨幣価値下落分と相殺すべきであるという原告の主張は採用しない。以下同じ。

(二)  逸失利益

金一五〇六万八八八四円

〈証拠〉によれば、原告は本件事故当事満四二才の主婦であつて特段の職業を有していたわけでないこと、しかし原告は昭和三四年ころから毎年のように夏になると農家へ手伝いに行き、冬には土木作業に従事して現金収入を得ていたこと、具体的には昭和四一年五月一八日から同年六月一七日まで田植えを手伝い(日給金二二〇〇円)、同月二〇日から同月二九日まで田の除草をし(日給全一二〇〇円)、同年九月一八日から同年一〇月一七日まで稲刈りと稲落しをし(日給金三八〇〇円)、同月二五日から同年一二月二四日ころまで土木作業に従事し(日給金一〇〇〇円)、昭和四一年の総計では一三二日間対外的労働に従事して金二五万五二〇〇円の現金収入を得たこと、および昭和四四年六月ころ原告は夫である高橋源之丞と協議離婚したこと、がそれぞれ認められ、〈証拠判断略〉。そして、前記認定した原告の症状の程度からすれば、その労働能力を一〇〇%喪失したと認めるのが相当である。

ところで家事労働に専念する妻がその労働能力を喪失した場合には、その逸失利益は原則として平均的労働可能年齢に達するまで女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益と同一であると推定するのが相当である(最高裁判所昭和四九年七月一九日第二小法廷判決・最高裁判所民事判例集二八巻五号八七二頁参照)。

右認定したところによれば、原告は主婦であつて特段の職業はなかつたというものの、一年を通じて家事労働に専念していたということはできない。がしかし、原告が現金収入を得ている途はいわば臨時的なものであつて、右認定した事実からでは、就労期間および賃金額につき将来にわたつても一定したものが認められるとするのは困難であり、他に適当な証拠もない。とすれば、結局、本件にあつて原告は一年を通じ家事労働に専念したものと仮定して、右原則によるとするのが相当である。そこで検討するに、女子の平均的労働可能最高年令はおよそ満六七才であり、また昭和四二年以降同五〇年までの女子雇傭労働者年間賃金の平均は別表のとおりであつて、これら数値は、労働統計年報および賃金センサス等によつて当裁判所に顕著である。そして同五一年以後の女子雇傭労働者の年間賃金は右昭和四二年以降の賃金上昇傾向から考えて少なくとも昭和五〇年におけるそれと同一と認めるのを相当とする。

以上によれば原告の逸失利益は次のとおりである。

1  逸失利益のうち昭和四二年二月二六日~同五一年七月八日までの分

金五一二万三〇五〇円

(年五分の割合による中間利息の控除はホフマン方式によつて事故発生時の現価を算出。数式は別表のとおり)

2  逸失利益のうち将来請求分(同五一年七月九日から一七年間)

金九九四万五八三四円

〈計算式省略〉

(年五分による中間利息の控除は長期にわたるため修正ライプニツツ方式により事故発生時の現価を算出)

(三)  慰藉料 金一五〇〇万円

前記認定した負傷の程度およびその回復が不可能であること、本件事故に至る経緯や事故後の状況等前認定の今後の状況、その他本件において現われた諸般の事情を考慮すれば、慰藉料として金一五〇〇万円が相当である。

(四)  弁護士費用 金三〇〇万円

原告は昭和四五年六月二五日訴外弁護士下坂浩介に対し、本件訴訟の提起および追行の一切を委任したことは当裁判所に顕著である。そして、本件訴訟の進行の状況、事件の難易度、認容額等諸般の事情を考慮すれば前記松本および大山の不法行為と相当因果関係があると認められる弁護士費用は金三〇〇万円をもつて相当とする。

(五)  合計 金五七三四万二六六六円

以上によれば、原告が本件事故により蒙つた損害の合計は右(一)から(四)の合計である金五七三四万二六六六円と認められる。

六次に被告主張の抗弁(あわせて原告主張の再抗弁をも)について判断する。

(一)  消滅時効の成否について

抗弁第一項(一)記載の事実は当事者間に争いがない。そして、前記当事者間に争いのない本件事故に至るまでの経緯からみれば、原告は本件事故当時に加害者を知つていたものと推認できる。従つて、以上からすれば、民法第七二四条前段に定める消滅時効期間は経過したと認められる。これに対し原告は同法一五三条の催告により時効は中断している旨主張するので、この点につき検討する。原告代理人下坂浩介が昭和四五年二月一二日被告に対し内容証明郵便を送付し、同郵便物は翌一三日に被告に到達したとの事実は当事者間に争いがなく、また右同日から六ケ月以内である同年六月二五日に本件訴訟が提起されたことは記録上明らかである。そこで右内容証明郵便の内容についてみるに、〈証拠〉によれば右内容証明郵便は標題を「損害賠償請求の件」とし、本件事故に関し被告は原告に対し「国家賠償法第三条に基き当然その損害を賠償する責任があります。しかるに道として損害賠償責任を認められるか否か来る二月二〇日迄に御回答願いたく期限を切らせて載き要請致します。」との内容の記載がある。ところで民法第一五三条に催告とは、債権者が債務者に対して債務の履行を請求する意思を通知することを意味するものであるところ、右認定した内容からみれば債務履行を請求する意思を読みとることができるのであつて、これを単なる照会文書と解し、右催告にあたらないとする被告の主張は採るを得ないものである。以上によれば、原告が再抗弁として主張するところは理由があり、原告が本訴で主張する請求権は時効により消滅していないと認められる。

(二)  過失相殺

抗弁第二項(一)記載の事実は当事者間に争いがない。そして〈証拠〉を総合すれば、原告は長年豪雪地帯である沼田町に住居し、毎冬延ベ一ケ月近くも除雪作業を行なつていたこと、および原告自身、体育館屋根上に付着した氷雪が落下する危険を予知したが、他の父兄らとの共同作業のため遠慮して危険除去の手段を採ろうとしなかつたことがそれぞれ認められる〈証拠判断省略〉。そして、以上の事実に前記本件事故に至る経緯その他諸般の事情を考慮すると、前記損害のうち弁護士費用、入院治療費(過失相殺の対象としない)を除くその余の損害について二割の過失相殺の対象としない)を除くその余の損害について二割の過失相殺をするのが相当である。

(三)  弁済

抗弁第三項記載の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

右(一)、(二)の事実によれば、PTA、沼田町からの見舞金、賠償金の合計金四八五万三七一四円を右損害額から控除すべきである。また入院治療費が生活保護法に基づく医療扶助で支払われていても被害者が損害賠償を受けたときにはその受給分を返還することになり、したがつて一般的には右の場合には損害の填補があつたとは認められないけれども、本件におけるような当事者の関係にある場合には、損害の填補があつたと同一視して差支えないものと認める。したがつて理由第五項(一)1で認定した入院治療費は損害が填捕されたと認められるから前記認定した損害額から控除することとする。

七以上を総合すれば、被告が原告に対し賠償すべき損害額は金三二二二万〇九九二円となる。

〈計算式省略〉

よつて、原告の本訴請求中、金三二二二万〇九九二円および同金額から弁護士費用を控除した金二九二二万〇九九二円に対し本件不法行為の日の昭和四二年二月二六日から右支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(丹宗朝子 前川豪志 上原裕之)

別表〈省略〉

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